筆者は、3連休明けの9月21日以降、日本の株式市場が中国発の相場下落に見舞われる場合に備え、先週末までにインバース型ETF(相場下落時に利益が上がる)を購入するなど、一定の備えをしています。
筆者が懸念しているのは、巨額の負債を抱える中国の不動産デベロッパー「中国恒大集団 (China Evergrande Group)」が9月20日以降に期限を迎える銀行借入返済や社債償還ができず債務不履行(デフォルト)となる可能性です。同社1社の破綻に留まれば良いのですが、中国株式市場全体の下落やさらにグローバルな市場の動揺・混乱につながるリスクも(発生確率は低いものの)想定されることから、防御策を取ったわけです。
恒大集団はマンションを中心とする中国第2位の不動産デベロッパーで、世界の有力企業を集めたフォーチュン500の122位にランクされる大企業です。強豪サッカーチーム広州FC(旧広州恒大)のオーナー企業としても知られています。
その負債総額は、2021年6月末で約9.8兆円、現預金を差し引いたネット有利子負債でも約7.0兆円にのぼります。銀行借り入れが中心ですが、社債もUSドル建て、香港ドルを含めて約2.1兆円の残高がありり、ブラックロック、UBS、HSBCといった大手機関投資家が大量に保有していると報じられています。
また、資金調達の一環として、「理財商品」と呼ばれる高利回り短期の実績配当商品を個人向けに販売しています。「シャドーバンキング」(銀行以外による金融仲介業務)と呼ばれるこうした金融の仕組みが、リーマンショック時のサブプライムローンのような金融危機の火種になり得ることは予てから指摘されています。
この理財商品の一部が期限になっても償還されず、個人投資家が9月12日に数百人規模で抗議行動を行いました。
恒大の経営不振の背景には、2020年8月の中国政府による不動産融資制限政策「三道紅線」(3本のレッドライン)があります。中国政府による「不動産バブル」抑制政策のひとつで、(1)資産負債比率70%超、(2)純負債資本倍率100%超、(3)手元資金の短期債務倍率が100%を割り込む不動産デベロッパーに対しては銀行からの融資を制限するという内容です。
恒大は、3基準いずれも満たせておらず、金融機関が繰り上げ返済要請を行ったことから、資金繰りが急速に悪化し、株価も急落しています。
同社の社債の格付けはCCC(トリプルC)以下に転落し、社債の価格も額面の30%程度と、市場はすでに債務不履行(デフォルト)を織り込んだ状況になっています。
中国恒大集団が経営破綻した場合、影響はどこまで広がるのでしょうか? 中国政府は、良質な住宅の適正価格での供給を基本方針としており、不動産市場の暴落は望んでいないものと思われます。また、中国は1990年代の日本のバブル崩壊の過程も研究し尽くしていることから、恒大の破綻が金融システム不安や不動産市場の暴落に繋がる事態は回避する手段をとるものと考えられます。
これらのことから、恒大の破綻の影響は限定的で、日本を含む国際市場に波及するリスクは小さい、というのがメインシナリオです。
しかし、筆者は国際金融市場が中国リスクを十分に織り込んでいるのか、やや疑問に感じています。ここで言う中国リスクとは、恒大に代表される不動産の乱開発と不動産価格の高騰だけではなく、中国政府による与信引き締め政策(2021年からクレジット・インパルス(総債務残高対GDP比の前年差)がマイナスに転じる)の実体経済への影響や、新疆ウイグル自治区の人権問題のビジネス影響(例:誤解に基づいた先日のユニクロの綿素材調達報道)、さらに芸術・文化活動やゲーム産業・アイドル産業(AKB的人気投票の禁止)への締め付けの影響など、広範囲に及びます。
8月下旬から有名女優で映画監督としても知られるチャオウェイ(ビッキー・チャオ)が、中国のネット上で「検索できなく」なり、出演した映画も見られなくなっただけではなく、監督映画の監督欄が空白で表示されています。習近平国家主席への個人崇拝が進む中国で、最大級のスターでさえ突然理由も明かされないまま消されてしまう、という事態に、欧米諸国が中国を”異質なもの”から”危険なもの”として見始めたことは、米英豪が原子力潜水艦の豪州配備支援を含む安全保障協定を結んだことと併せて、投資家としては認識しておくべき論点だと考えています。
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